再生 弐
曇天空の燻んだ日。門を潜った先に何があったか。
それは、無数の刃。己を貫こうと飛んでくる刃。
「!?」
しかし零士がそれらに気付いた瞬間、何か壁に当たったかの様にキンッと音を鳴らして地に落ちる。矢も刃も何もかも。それもその筈。
恐神零士は天然の結界術師。二級までなら絶対にその脅威を自身の領域に入らせない、無限展開する結界の天才。
すると何処からか拍手の音が聞こえてくる。
「ほぉ?術式が無いお前でも、二級相当なら撃ち返すのだな。」
「...当主」
広々とした玄関からやって来る1人の男。黒い髪に黒い目、そして青い袴を着た恐神を統べる者。
現当主、恐神景親。零士の叔父であり力を手に入れんと躍起になる獣。そして、零士を敵対視している1人。それもその筈。
「呼び出しに応じてくれた様で何よりだ、零士。さぁ、中に入ろうか。」
「...」
中へ急かす景親と、足を竦ませ乍も歩く零士。おいで、と手招きをして笑う景親の意図が読めない。故に成る可く広い場所にいたい。そう願ってしまうのは、この家で過ごした記憶の出来事が酷すぎるから。この叔父にも、父親にも、誰にも。
思えば最初の記憶は、自身の胸を刃で...やい、ば?で...?
『入れろ。其奴の魂を。さすれば———』
零士の足が止まる。硬直し、そのまま動かなくなる。目を見開かせて景親を見る。
《...零士、如何した。》
異変を感じた餓者髑髏が頭に問い掛ける。その声にハッと意識を戻し、再び歩く。
《...零士よ、平気か。》
「平気だ、大丈夫...」
本当は歩きたく無い。“また”首を切られるのかと怖い。“また”あの子を失う羽目になるかもしれないと思うと恐ろしい。
だから、景親の元まで歩かなければならない。
「何を愚図っている。早く来い、面汚し。」
低く響き渡る景親の声に思わず表情が強張る。幼い頃に植え付けられた上下関係と力の差は未だ体に染み付いたまま。
震えを抑えて、一歩一歩と地を踏む。
そうして零士は、中へ入った。